セッションの中で、丁寧に話を聴いている。安心して話せるように場を整えている。それなのに、クライアントさんがなかなか一歩を踏み出さない。
そんな経験はないでしょうか。
「本当は変わりたい」と話してくれるのに、行動は変わらない。こちらも十分に寄り添っているつもりなのに、なぜか前に進んでいかない。ひょっとすると、その理由は安心の作り方にあるのかもしれません。
安心できるだけでは、一歩が出ないことがある
対人支援では、「安心できる場を作ること」がとても大切にされます。評価されず、否定されず、安心して話せる。これは、クライアントさんが自分のことを見つめるための土台になります。
ただ、安心できる場ができたら、それだけで人が変わるかというと、そうとも限りません。
人が変化するときには、必ず何らかのリスクが伴うからです。
たとえば、「本音を伝えたい」という変化を考えてみましょう。本音を言えば、嫌われるかもしれない。相手との関係が壊れるかもしれない。そうした可能性があるからこそ、これまで自分の意見を言わずに過ごしてきたのかもしれません。
その人が本音を伝える方向へ変わりたいと思ったとき、そこにはリスクがあります。どれだけ落ち着いて安心できる場所にいても、そのリスクを超えていく何かがなければ、実際の一歩にはつながりにくいのではないでしょうか。
「リスクを取っても大丈夫」と感じられる安全
ここでいう安全は、何も起こらない、刺激のない、いわば生ぬるい場所という意味ではありません。
本音を言っても大丈夫。やめたいと言っても大丈夫。評価されない、否定されない、見捨てられない。そう感じられることです。
たとえばクライアントさんが、「本当はやめたいです」と話したとします。そのときに、その言葉を出しても関係が壊れない。支援者から拒絶されない。そんな感覚があれば、クライアントさんは初めて、その先の一歩を考えられるかもしれません。
安心とは、リスクが消えることではありません。リスクを取っても、自分は大丈夫でいられると感じられることなのだと思います。
変化を起こすのは、支援者の力ではなく本人の勇気
そして、もう一つ大切になるのが「勇気」です。
変化は、安心だけでは起こりません。本人が自分で一歩踏み出そうとする力があってこそ、行動が変わっていきます。支援者が無理やり変えることはできないからです。
同じような悩みを抱えている二人がいたとして、一人は話すところで止まり、もう一人は実際に行動を変えていくことがあります。その違いは、能力の差ではないのかもしれません。
その場で、一歩を踏み出せる勇気が立ち上がったかどうか。
だから支援者の役割は、答えを与えたり、正しいアドバイスをしたりすることだけではありません。クライアントさんの中にあるモチベーションや勇気が、自然に立ち上がってくる場を作ることです。
励ますのではなく、自分から進みたくなる場をつくる
勇気を生み出すというと、強く励ますことや、背中を押すことを思い浮かべるかもしれません。
けれども、支援者が「こうしたほうがいい」と押してしまえば、クライアントさん自身の一歩ではなくなってしまうことがあります。
大切なのは、その人が自ら「進んでみたい」と思える状態をどう作るかです。安心があるからこそ、本音を出せる。勇気が立ち上がるからこそ、その本音をもとに行動を考えられる。
安心と勇気は、どちらか一方だけでよいものではありません。その二つが同時にあるとき、人は少しずつ自然に変わっていけるのかもしれません。
正しいことを伝えることよりも、その人が一歩踏み出せる場をつくること。目の前のクライアントさんに、今ある安心は「何も変えなくてよい安心」になっていないか、それとも「リスクを取っても大丈夫だと思える安心」になっているか。
そんなふうに問い直してみると、次の関わり方が少し違って見えてくるのではないでしょうか。
