「頭では分かっているんですけど……」
対人支援の場で、クライアントさんからこんな言葉を聞くことはないでしょうか。アドバイスもしているし、ご本人も内容を理解している。けれど、なぜか変化が起きない。
こちらがさらに言葉を重ねても、どこか空回りしてしまう。そんな感覚を持ったことがある方もいるかもしれません。
ひょっとすると、それは言葉の問題ではなく、言葉と体験のつながりの問題なのではないでしょうか。
「分かっているのに変われない」とき、何が起きているのか
私たちの中には、言葉で理解している自分と、体で感じている自分がいます。
たとえば、クライアントさんが「もう気にしていません」と話していたとします。その言葉だけを聞けば、すでに整理がついているようにも思えます。
けれど、そのとき体が緊張していたり、声が硬くなっていたりすることがあります。
「もう気にしていません」と、力の入った声で言うのと、自然に力が抜けた状態で言うのとでは、同じ言葉でもまったく違って聞こえますよね。
つまり、言葉として「気にしていない」と言っていることと、体で感じていることがずれている。そうした状態ではないでしょうか。
このずれがあるとき、こちらがどれだけ正しいアドバイスをしても、その言葉は届きにくくなります。
正しい助言より、言葉と体験をつなぎ直す
この場面で大切なのは、すぐに別の言葉をかけることではありません。
本当に重要なのは、クライアントさんの中で離れてしまっている言葉と体験を、もう一度つなぎ直していくことです。
そのためには、まずこちらが言葉と体のずれに気づき、それを丁寧に言葉にして返していきます。
たとえば、クライアントさんが「大丈夫です」と言ったとき。すぐに「それならよかったです」と受け取るのではなく、こんなふうに伝えられるかもしれません。
「今、大丈夫と言ったとき、ほんの少し体が硬くなったようにも見えたのですが、どうでしょうか」
あるいは、話している途中で声の変化を感じたなら、「今こうやって話していると、少し声が静かになったように感じます」と返してみる。
ここで大切なのは、こちらが正解を言い当てることではありません。「あなたは本当はこう感じています」と決めつけることでもありません。
あくまで、こちらに見えたり聞こえたりしたことを、相手に返してみるのです。
体の変化を伝えると、本人の中に「あれ?」が生まれる
「大丈夫」と言ったのに体が硬くなったことを伝えられると、クライアントさんは「えっと……」と立ち止まるかもしれません。
その「あれ?」が、変化の始まりになることがあります。
自分では気づかないまま使っていた言葉と、体で起きていること。その両方に目を向けることで、「私は大丈夫だと思っていたけれど、体はまだ緊張しているのかもしれない」と気づくことができる。
そこから、言葉だけで理解していたことが、体験として少しずつ感じられるようになる場合があります。
もちろん、私たちが見たことが必ず正しいとは限りません。だからこそ、「そう見えた」「そう感じた」と、余白を残して伝えることが大切なのではないでしょうか。
相手の内側をこちらが説明するのではなく、相手自身が確かめられるように返していく。そんな関わり方です。
言葉が届くために、まず相手のつながりを見る
支援の場では、つい「どんな言葉をかければいいか」「どんなアドバイスが適切か」を考えます。
けれど、言葉が届くためには、その前に相手の中で言葉と体験がつながっているかを見る必要があるのかもしれません。
クライアントさんの言葉の奥には、まだ言葉になっていない体の反応や感覚があることがあります。声の硬さ、話す速さ、ほんの少しの緊張。そうしたものにも耳を澄ませてみる。
そして、気づいたことを評価せず、決めつけず、そっと伝え返す。
これは単なるテクニックというより、相手の中にあるつながりを回復していく、支援的な関わり方の一部なのだと思います。
「分かっているのに変われない」と語る人に出会ったとき、私たちは、さらに分かりやすい説明を探すだけでなく、その人の言葉と体が今どのように響き合っているのかを見てみる。
その小さなずれに気づき、丁寧に返していくことが、言葉の奥にある本当の体験に触れる入口になるのかもしれません。
次に誰かが「大丈夫です」と言ったとき、あなたにはその言葉とともに、どんな声や体の変化が感じられるでしょうか。
