こんな経験はないでしょうか。

クライアントさんが、なかなか本音を話してくれない。こちらはよかれと思って提案しているのに、なかなか動かない。話を重ねるほど、どこか関係が硬くなっていく。

そんなとき、私たちはつい「どんな声かけをすればいいのだろう」「もっと役に立つ技法を身につけなければ」と考えがちです。

けれども、もしかすると関係しているのは技法だけではなく、その場にどれだけ自由があるかなのかもしれません。

「何を話してもいい」だけではない、自由な場

ここでいう自由は、単に「何を話してもいいですよ」と伝えることではありません。

評価されない。押しつけられない。失敗しても大丈夫。怒りや悲しみといった感情を出してもいい。空想しても、迷っても、混乱してもいい。

そのように、心理的に開かれた空間があるということです。

たとえば、クライアントさんが「本当は会社を辞めたいんです」と話したとします。

そのとき支援者が、「でも生活がありますよね」「まずは現実的に考えましょう」と返したらどうでしょうか。

支援者としては、心配しているのかもしれません。現実的な視点を持ってほしいと思っているのかもしれません。

けれど、その瞬間に、クライアントさんの中にある、まだ言葉になっていない感覚は、すっと閉じてしまうことがあります。

そこには、自由が少なくなっているのではないでしょうか。

本音に触れ始めるための、受け止め方

では、どのように関わることができるでしょう。

「辞めたい。今、そんな感覚をお持ちなんですね」

まずは、その人の中にそういう感覚があることを、そのまま受け止めてみる。

すぐに判断したり、方向づけたりするのではなく、そこにあるものを一緒に見ていくのです。

そうするとクライアントさんは、「あ、このことを話しても大丈夫なんだ」と感じられるかもしれません。

そしてようやく、自分の本音に触れ始めることができます。

自由な場では、人は空想したり、試したり、夢を見たりすることもできます。まだ実現するかどうかわからないことや、自分でもまとまっていない思いを、安心して出してみることができるのです。

緊張していると、人は「正しい答え」を探し始める

人は緊張や防衛の中にいると、正しい答えを探そうとします。場合によっては、正しい答えしか探せなくなります。

一方で、「ここでは何を言っても大丈夫だ」と確信できていれば、もっと自由にアイデアを出すことができます。

「本当は自分はどうしたいのだろう」と、自分の内側にある感覚にも、少しずつアクセスできるようになるのではないでしょうか。

ここで、支援者の側の意図が大きく関係してきます。

「この人を変えなければ」「この方向に進ませなければ」「この人がこうしたいと言っているから、何とかそちらへ行かせなければ」

そんなふうに相手の方向性を強く握れば握るほど、クライアントさんは無意識に「間違ってはいけない」と感じることがあります。

すると、自分の本来の感覚ではなく、目の前の支援者が期待している答えを返すようになるのです。

「やります」と言っても、動けないことがある

たとえば、コーチが「行動することが大事だ」という信念を強く持っていたとします。

その場でクライアントさんは、「はい、やります」と言うかもしれません。でも、実際には動けない。

それは、本人が自分で選んでいないからかもしれません。

支援者の期待に合わせて答えたとしても、その人の内側から出てきた選択でなければ、行動につながりにくいことがあります。自由が減った結果として、そうなってしまうこともあるのです。

だからこそ、まずは「クライアントさんは、どのような状態であっても、その人なりに正しい」と捉えておくことが役に立つのではないかと思います。

今、話せないことも。迷っていることも。動けないことも。そこには、その人の中で何かが起きているのかもしれません。

私たちが急いで変えようとしなくても、自由で安全な場があることで、その人の中にあるものが立ち上がってくることがあります。

対人支援では、つい「何をするか」に意識が向きます。けれど実際には、「どんな場が生まれているか」のほうが、深い変化に関係していることも多いのではないでしょうか。

いま目の前のクライアントさんは、自由に迷えているでしょうか。期待される答えではなく、自分の答えを探せているでしょうか。

その問いを持ちながら、相手の中にあるものが現れてくるのを、少し待ってみる。そこから始まる支援も、きっとあるのだと思います。

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