話の内容としては、何も問題ないはずだった。
それなのに、クライアントが急に防衛的になったり、反発したり、黙ってしまったりする。そんな場面では、「私の伝え方が悪かったのだろうか」と考えることがあるかもしれません。
もちろん、言葉の選び方は関係します。ただ、会話の中では、言葉の内容とは別のレベルでも何かが起きています。
表面上は成人同士が落ち着いて話しているように見えても、裏では親から子へ、あるいは子から親へというやりとりが走っていることがある。だとすると、見直すべきなのは、何を言ったかだけではありません。その言葉が、相手のどの状態に向けて発せられ、相手はどこから反応しているのかです。
一つの会話には、二つのメッセージが流れている
会話では、言葉と言葉以外の表現が同時に出ています。
言葉の内容そのものが、表のメッセージです。その一方で、感情、態度、意図は、声のトーン、速さ、表情、目線、姿勢といった非言語の部分からも伝わっていきます。
例えば、クライアントがこう言ったとします。
> 「ちゃんとやろうとは思ってるんですけどね」
言葉だけを見れば、「ちゃんとやろうと思っている」という成人の言葉です。
でも、声が少し小さく、目線が下がりながら「ちゃんとやろうと思ってるんですけどね」と言われたとしたら、そこには別のメッセージも含まれているかもしれません。
責められるかもしれない。評価されるかもしれない。もう無理なのかもしれない。
何があるかは、その一言だけでは決められません。ただ、言葉の裏側では、子供の状態からのメッセージが発せられている可能性があります。
人は、言葉だけを送っているわけではありません。「ちゃんとやろうと思っている」という内容と、それをどんな態度で言うのか。その二つを同時に発しているのです。
成人への質問が、責められた感覚を生むとき
ここで起きうるのが、表と裏で異なるやりとりが走る、二重の裏面交流です。
例えば、支援者が「それはどうしてそうなったんですか?」と尋ねる場面を考えてみます。
この言葉自体は、成人に向けた質問です。経緯を確かめる、事実を見ていくための問いにもなります。
けれども、「それって、なぜそうなったんですか?」というように、評価するニュアンスや、少し詰める感じ、正解を求める感じが乗ることがあります。
言葉は同じでも、表情や声のトーン、声のスピード、姿勢まで含めると、相手には「責められている」というメッセージとして届くかもしれません。
そう受け取った相手は、内容に対してではなく、裏側のメッセージに対して反応します。そして、子供の状態から、防衛したり、黙ったりすることがある。
表では成人同士の会話をしている。それでも裏では、親から子へのやりとりが走っている。こうしたことがあると、会話の内容だけをいくら整えても、なぜすれ違うのかが見えにくくなります。
相手の反発は、どこに向けたメッセージから生まれたのか
もう一つ、表では成人に話しているように見せながら、裏では相手の子供を狙うような交流があります。これは、角度のある交流と呼ばれるものです。
例えば、「このプログラムはいいですが、少し難しいかもしれませんね」という言葉。
これは事実の説明として伝えることもできます。ただ、「このプログラムはいいんですけど、少し難しいかもしれませんね」と言うとき、その言い方によっては、裏側に別のメッセージが乗ることがあります。
「できない人なんじゃないですか」
「できないんじゃないの?」
そんな親から子へのメッセージです。
すると相手は、「いや、やります」「そんなことありません。やります」と反発するかもしれません。
このとき、表面だけを見れば、プログラムの難しさを説明した側に対して、相手が急に反発したように見えるでしょう。でも裏側では、親から子に向けたメッセージが、子供の反発を引き出している可能性があります。
ここには一つ、重要な原則があります。
相手をある状態にすることはできません。できるのは、その状態から反応するように誘うことだけです。
子供の反発を狙うようなメッセージを発しているにもかかわらず、「自分が反発された」とだけ捉えることはできません。どこに向けて、どんなメッセージを送っていたのかも、会話の中に含まれているからです。
内容ではなく、関係そのものを見る
同じ言葉でも、同じ質問でも、同じ問いでも、同じ承認でも、相手がどこから反応するかは変わります。
それは、言葉の内容だけで決まるわけではありません。こちらがどんな態度で、どんな意図を乗せ、相手のどの状態に向けて伝えているのか。その裏面の交流が、関係の中で働いています。
クライアントが防衛的になったとき、「伝え方が悪かった」とすぐに結論づける前に、少し立ち止まってみる。
表では何を言っていたのか。そして裏では、どのような交流が走っていたのか。
そこに気づけるようになると、会話の内容だけではなく、関係そのものが見えてきます。相手の反応をただ受け取るのではなく、こちらがどこから関わろうとしていたのかも含めて、セッションを見直せるようになるのではないでしょうか。
