セッションの中で、クライアントさんが強い不安を抱えていると、「この不安を減らしたい」と思うことはないでしょうか。
症状で苦しんでいる人を前にすると、「何とか楽にしてあげたい」「この症状を消してあげたい」と、支援者として力が入ることもあると思います。
けれど、こちらが問題を何とかしようと頑張れば頑張るほど、なぜかクライアントさんも、その問題にどんどん固定されてしまう。そんな経験はないでしょうか。
今回は、ミルトン・エリクソンがよく使っていた方法をもとに、すでに起きている小さな変化を見つけ、それを育てていくという視点を一緒に探究していきたいと思います。
問題そのものではなく、「問題ではない時間」に目を向ける
エリクソンは、いつも痛みを消そうとしていたわけではありません。
彼が特に好んで扱っていたのは、「痛くない時間」や「少し楽な時間」、「少し快適だった瞬間」を見つけることでした。
たとえば、腰が痛いという訴えがあったとします。私たちはつい、腰の痛みそのものを詳しく見続けようとします。いつから痛いのか、どれくらい痛いのか、何をすると痛むのか。
もちろん、問題を見ることは支援者にとって大切です。ただ、問題だけを見続けていると、本人の中でもその問題にスポットライトが当たり続けることがあります。
すると、無意識のうちに、問題に関する体験を繰り返し探し始めることがあるのではないでしょうか。
そこで、痛みそのものではなく、「痛くなかった瞬間」や「少し楽だった時間」に目を向けてみます。そこには、すでに起きている小さな変化があるかもしれません。
問いを向けた場所に、体験が育っていく
私たちの中では、いつも連想が起きています。
たとえば「ああ、これができなかったな」と思ったとします。すると、「やっぱり自分はダメなんだ」「また失敗した」「これからも繰り返すかもしれない」と、次々に考えがつながっていくことがあります。
これは、想像が連続していくような連想です。
この連想は、苦しい方向にだけ働くものではありません。建設的な方向へつないでいくこともできます。
「今、少し肩が緩んだ」と気づいたとしましょう。そこから、「そういえば、前にも少し楽になったことがあった」「ひょっとしたら、体は変わることがあるのかもしれない」と、別の連想を広げていくことができます。
大きな変化を無理に起こそうとするのではなく、すでに起きている変化に問いを向ける。そこから、その人の内側にある連想を、少しずつつないでいくのです。
「ずっと良くなる」ではなく、まずは1秒長く
エリクソンは、「ずっと良くなっていく」といった大きすぎる目標を、いつも考えていたわけではありません。
それは、あまりにも無謀な連想になりやすいからです。
そうではなく、「1秒長く」という発想を使うことがありました。今日は1秒、明日は2秒、その次は4秒というように、今ある変化を少しずつ長くしていくのです。
支援の中でも、これはとても大切な考え方ではないでしょうか。
あまりに小さな変化なら、脳も受け入れやすいかもしれません。「ずっと続ける」と言われると、思わず「いやいや、それは無理です」と感じることがあります。
勉強でも同じです。「1時間勉強しましょう」と言われると、少し身構えてしまう。でも、「まず5秒だけ」と言われたら、「それくらいなら」と思えるかもしれません。
すでにできていることを、ほんの少しだけ長くしていく。変化を大きくしようとするより、今あるものを育てるという発想です。
変化は、問題の中ではなく「隙間」にあるかもしれない
まずは、すでに起きている例外を見つけてみてください。
ずっと不安ではなかった瞬間。ほんの少し肩の力が抜けた時間。痛みがわずかに遠のいた場面。いつもできないことが、一度だけできた経験。
そうした小さな隙間を見つけたら、「では、あと1秒だけ」と考えてみる。すでに起きていることを、少しずつ長くしていくのです。
問題を見る力は、支援者にとってとても重要です。ただ、ときどき変化は問題そのものの中ではなく、問題と問題の間にあることもあります。
その小さな瞬間を見逃さず、問いを向け、連想をつないでいく。そうやって育てられたわずかな変化が、後々、大きな変化につながっていくことがあるのではないでしょうか。
目の前の問題を何とかしようとする前に、その人の中ですでに起きている「問題ではない体験」を探してみる。
次のセッションでは、どんな小さな隙間が見つかるでしょうか。そして、その隙間をあと1秒だけ広げるとしたら、どんな問いを向けられるでしょうか。
