人と話しているとき、急に頭が真っ白になる。胸がぎゅっと詰まり、言葉が出てこなくなる。
そんなとき私たちの注意は、不安そのものや頭の中の考え、体の痛み、あるいは相手の反応といった、一つの場所に固まりやすくなります。すると呼吸は浅くなり、体も「闘うか、逃げるか」のモードへ入っていきます。
このように注意が一点へ吸い寄せられているとき、無理に「落ち着かなければ」とするよりも、注意を少しずつ動かしてみることが役に立つ場合があります。
ここで考えたいのは、不安や緊張に引きずられている自分を、どうすれば今この瞬間へ戻していけるのか、ということです。
固まった注意を、三つの場所のあいだで動かしてみる
私が使っているのは、三点に注意を向けるシンプルなフォーカスです。
三点とは、体の内側の一点、外側の一点、そして身体感覚の一点です。たとえば、こんな三つを選べます。
- 胸の温かさ
- 目の前にある壁の模様
- 足の裏が床に接地している感覚
胸の温かさは内側です。壁の模様は外側です。そして足の裏は、身体感覚です。
大切なのは、一つに集中し続けることではありません。この三つの場所を、ゆっくり順繰りに感じていくことです。胸のあたりに気づき、目の前へ視線を向け、足の裏の感覚に戻る。また内側へ戻っていく。そんなふうに注意を行き来させます。
不安や緊張が強いときには、注意が一点に集中することで緊張感も高まりやすくなります。だからこそ、固まっていた注意を動かしていく。その動きそのものが、脳に安全を認識させていくことがあります。
内側に沈み込むのではなく、戻ってくる
この方法は、内側に深く沈み込むためのものではありません。何か一つに強く集中することとも少し違います。
内側、外側、身体感覚という三点の間を移動していると、私たちは必然的に今この瞬間へ戻されます。「今ここにいよう」と頑張るというより、戻っていくことを経験できるわけです。
たとえば、今この文章を読んでいる最中にもできます。
まず、体の中で少し落ち着ける場所を一つ感じてみる。次に、目の前にある一点を見つける。そして、足の裏の感覚に気づいてみる。
この三つを、ゆっくり行き来してみてください。呼吸が徐々に深まったり、心が少し今に戻ったりする感覚があるかもしれません。
自分のためにも、関わる相手のためにも
三点フォーカスは、自分自身のセルフケアとして使えます。日常のなかで心がざわついたとき、注意がどこか一つに固まっていることに気づいたら、その注意を三つの場所へそっと動かしてみる。
同時に、セラピーやコーチングの場面では、クライアントが安全の感覚を育てるための誘導としても使えます。セッションの中だけでなく、クライアント自身が日常で行うセルフケアとして持ち帰ることもできます。
不安をなくそうとするのではなく、今、不安がどこへ注意を固めているのかを見てみる。そして内側、外側、足元へと注意を行き来させる。
そう考えると、「今ここに戻る」ということは、特別な状態をつくることではなく、固まった注意にもう一度動ける場所を渡してあげることなのかもしれません。
