セッションの中で、クライアントさんがすぐに謝ったり、こちらの顔色を気にしたり、何でも合わせようとしたりすることはないでしょうか。
そんな様子を見て、「自己肯定感が低い人なのかな」「意思が弱いのかな」と感じることがあるかもしれません。あるいは、急に黙ったクライアントさんを見て、「抵抗している」「心を閉ざした」と受け取ることもあるのではないでしょうか。
けれども、私たちが性格や態度だと思って見ているものは、実は、トラウマを生き延びるための反応であることがほとんどです。
「心を閉ざした」と意味づける前に、何が起きているかを見る
対人支援で大切なのは、目の前の人をすぐに判断しないことです。まず、その人の中で何が起きているのかを、できるだけ丁寧に観察していきます。
たとえば、クライアントさんが急に黙ったとします。
そのとき、「抵抗しているな」「考えていないのかな」「閉じたな」と意味づけることはできます。ただ、その前に見られることがあるはずです。
目線が下がっている。体が止まっている。呼吸が少し浅くなっている。声が小さくなっている。
こうしたものは、まだ解釈ではありません。今、目の前で起きている反応です。
私たちはつい、観察したことと、そこから自分が考えたことを一つにしてしまいます。しかし、この二つを分けてみると、クライアントさんの理解の仕方が少し変わってくるのではないでしょうか。
「意思が弱い人」ではなく、安全を守ってきた人かもしれない
たとえば、あるクライアントさんが「私は意思が弱いんです」と話していたとします。
けれども、その人のこれまでを丁寧に見ていくと、怒鳴られる家庭の中で生きてきた経験があったのかもしれません。逆らわないことで、安全を確保してきた歴史があったのかもしれないのです。
そう考えると、その人は単に弱い人ではありません。
かつての環境を生き延びるために、人の下に入るという生き方を選んできた。その反応は、その人にとって適応的なものだったのではないでしょうか。
すぐに謝ることも、顔色を伺うことも、何でも合わせることも、本人が意識して選んでいる性格とは限りません。声が小さくなり、呼吸が浅くなり、体が縮こまる。そうした反応として現れていることがあります。
そこに「自己肯定感が低い」という意味を急いで与えると、その人がこれまでどのように安全を守ってきたのかが見えにくくなってしまうかもしれません。
一人の中には、いくつもの「パーツ」がいる
人の中には、いろいろな部分、つまりパーツがあります。
助けを求めるパーツは、「誰も助けてくれなかった」という物語を持っているかもしれません。戦うパーツは、「傷つけられるくらいなら、こちらから攻撃する」という物語を持っているかもしれません。
それぞれのパーツが、違う感情や信念を持ち、それぞれの物語を語っているのです。
だから、目の前の反応を見たときには、「この人はこういう人だ」と決める代わりに、「これは誰の物語だろう」と考えてみるのもよいかもしれません。
黙っているのは、本人全体が支援を拒んでいるからではなく、怖さを感じているパーツが反応しているだけかもしれません。従っているように見えるのも、今の自分の意思がないからではなく、かつて安全を守ってくれた反応が働いているのかもしれません。
こちらが何を見ているかが、セッションを変えていく
対人支援では、何を言うかだけではなく、こちらが何を見ているかがとても重要です。
「この人は抵抗している」と見ていると、こちらも知らないうちに、その抵抗に対応しようとするかもしれません。けれど、「目線が下がった」「呼吸が浅くなった」「体が固まった」と観察できれば、目の前の人に起きていることを、もう少し丁寧に扱えるようになります。
観察と意味づけを分けることは、クライアントさんの理解を深めるだけではありません。支援者自身がセッションに巻き込まれにくくなり、「問題」と呼ばれている行動の見え方も変わっていきます。
今度、クライアントさんの反応を見て、何かをすぐに判断したくなったときには、少し立ち止まってみてください。
「この人はどういう人なのだろう」と考える前に、「今、何が起きているのだろう」と観察してみる。
そして、その反応は誰の物語なのか、どのパーツが安全を守ろうとしているのかを、クライアントさんと一緒に探究していく。そこから、これまでとは違う理解が始まるのかもしれません。
