クライアントさんが苦しそうにしていると、「もっと力を抜いてください」「考えすぎなくて大丈夫ですよ」と、一生懸命に言葉を選んで伝えることがあるのではないでしょうか。
けれど、相手はなかなか受け取ってくれない。むしろ「そんなことはできません」と閉じてしまったように感じることもあります。
そんなとき私たちは、もっといい問いかけや、もっと届く言葉が必要なのだと思いがちです。でも、ひょっとすると大切なのは、何を言ったかではなく、どんな形で関わったかなのかもしれません。
「変わってください」が届かないとき
エリクソンは、相手に変化を与える人ではなく、変化が起こる場をつくる人でした。
「こうしてください」と直接伝えることは、直接暗示と呼ぶことができます。一方で、「こんな可能性もあるかもしれませんね」と伝えるのが、間接暗示です。
ここで大事なのは、直接的な伝え方と間接的な伝え方の、どちらが正しいかということではありません。相手が実際にどう反応するのか、ということです。
たとえば、クライアントさんが「どうせ変われません」と言ったとします。そこに対して、「いやいや、あなたには可能性があります。そんなことはありません」と返しても、相手が受け取ってくれるならよいのですが、そうでなければ、相手の中に抵抗が起こるかもしれません。
そんなとき、「変われないと思うくらい、長い間頑張ってきたということがあるのかもしれませんね」と伝えてみる。
すると相手の中で、「どういうことかな」と探索が始まることがあります。「頑張ってきた」ということについて、考えざるを得なくなるからです。
アドバイスではなく、相手の中に探索を起こす
人は、「こうしなさい」という命令や、「こうした方がいい」というアドバイスによって動くとは限りません。むしろ、響きや連想、そして自分自身の体験によって動き始めることがあります。
不安が強いクライアントさんに、「この場は安心ですよ」「リラックスしてください」「安心していいですよ」と伝える場面を考えてみましょう。
言葉としてはやさしいものですが、相手からすると「安心しなさい」という指示にもなります。安心できない状態の人に、安心することを命令している形になってしまうのです。
そこで、「季節が変わるように、体もそんなに急ぐ必要はないかもしれませんね」と伝えたらどうでしょうか。
これは「安心してください」と直接言っているわけではありません。けれど相手は、自分なりに「変わる」ということの意味を探し始めるかもしれません。
直接伝えると、抵抗が起こることがある
「今、休みましょう」と言われたとき、「いや、忙しくて無理です」と返したくなることはないでしょうか。
これは、自分を守るために、まず顕在意識が反応している状態とも考えられます。直接的な介入は、相手が理解しやすい一方で、受け取るかどうかをすぐに判断できるため、抵抗も起こりやすくなります。
一方で、「最近、ほんの少しだけでも休めたなと思った瞬間は、どんなときでしたか」と尋ねられたらどうでしょう。
「休みなさい」というメッセージは含まれていますが、命令ではありません。相手は自分の中にある、休めたときの記憶を探し始めます。「休む」ということについて、考えざるを得なくなっていくのです。
これが、間接暗示の一つの働きです。相手が自分で受け取れる形を選べるように、余地を残しておく。そこに、抵抗を減らしながら、その人自身の力を引き出していく関わりが生まれます。
伝えたいアドバイスを「可能性」に変えてみる
対人支援の場で、何か伝えたいアドバイスが浮かんだときは、まずそれを可能性の言葉に変えてみるところから始めてもよいかもしれません。
「休んでください」ではなく、「少し休めたときには、どんな感じがしますか」。
「大丈夫です」ではなく、「大丈夫かもしれないと思えた瞬間は、これまでにあったでしょうか」。
もちろん、いつでも間接的に話せばよいということではありません。直接と間接は、セッションの中で混ぜて使っていくものです。大切なのは、言葉を正しく届けようとするだけではなく、相手が反応できる余地をつくることではないでしょうか。
変化は、こちらが用意した正しい言葉を、そのまま受け取ってもらうことから始まるとは限りません。
相手の中で、「どういうことだろう」と何かが動き、自分の記憶や体験を探し始める。その小さな探索が、変化の始まりになることもあるのだと思います。
