クライアントさんのためを思って、いろいろな提案をしている。こうしたらいい、これが原因です、こう変わるべきです——そう伝えているのに、なかなか動きが起きない。
対人支援をしていると、そんな経験はないでしょうか。
困っている人を目の前にすると、私たちはつい「正しい方向へ導かなければ」と考えます。よかれと思って、変化の道筋をこちらで作ろうとするわけです。
けれども、ミルトン・エリクソンは、少し違う関わりをしていたようです。変化の方向を決めるのではなく、その人の中にある可能性を増やす。
今日は、「変えようとするほど変化は止まる」というテーマを入り口に、無制限な形式の暗示について、一緒に考えてみたいと思います。
暗示は、相手をこちらの思い通りに動かすことではない
まず、暗示という言葉には誤解されやすいところがあります。暗示と聞くと、相手に新しい反応を植えつけたり、こちらの望む方向へ操作したりすることを思い浮かべるかもしれません。
しかし、エリクソンの姿勢は、むしろ反対だったようです。
相手の中に新しい反応を無理に作るのではなく、その人の中にすでにある反応の候補を増やし、選べるようにしていく。そして、その中から何を使うのかは、その人の無意識に任せていくのです。
たとえば、クライアントさんが「どうせ私は続きません」と話したとします。
私たちは思わず、「そんなことはありません。できますよ」と言いたくなるかもしれません。けれど、それでは支援者の側が「あなたはこう変わる」と方向を決めることになります。
そこで、こんなふうに尋ねることができます。
「続いたということが、これまでの人生で一度もなかったわけでは、きっとないと思うんですよね」
すると、その人は自分の中を探し始めます。「そういえば、あのときは続いていた」「そういえば、これも続けられていた」と、いくつかの可能性や選択肢を見つけていくことができます。
「人に頼れない」人の中にも、すでにある経験がある
「私は人に頼れないんです」と話すクライアントさんもいるでしょう。
そのとき、支援者が「頼ったほうがいいですよ」と伝えても、簡単には動かないかもしれません。本人にとっては、それが今までの自分を支えてきた反応でもあるからです。
けれども、これまで誰かに少しでも任せられた瞬間はなかったでしょうか。
そう尋ねると、「そういえば家族の誰かには任せられた」「友達には話せた」「もっと昔には、そういうことがあった」と、自分で発見できることがあります。
大切なのは、「頼れない」という言葉を否定することではありません。その人の中に、頼ることにつながる経験も存在しているかもしれないと、一緒に探していくことです。
無意識は、その人に合う反応を選んでいる
ここで、変化について少し立ち止まって考えてみましょう。
変化は、支援者が決めて運んでいくものではありません。クライアントさんの無意識の中で、「これは使える」「これは今は使えない」「これはまだ今ではない」といった選択が、意識に上がる前に起きているようです。
そして無意識は、その人自身の能力や今の状態に合わせて、使える反応を選んでいきます。
だからこそ、支援者が答えを決めすぎないほうが、その人に合った変化が起こりやすくなるのかもしれません。
「こうすればいい」と一つの答えを渡すのではなく、いくつかの可能性に触れられるようにする。その中から、本人の無意識が使えるものを選んでいくのです。
支援者の仕事は、忘れていた力を見つける場をつくること
クライアントさんが知らないことを、支援者が一方的に教える。対人支援は、そういう教育とは少し違うのかもしれません。
何かを思い出したり、想像したりすることは、比較的早く起こります。すでにその人の中にあるものと、もう一度つながっていくような変化です。
そう考えると、支援者の仕事は正解を教えることではなく、本人が忘れていた力や反応を見つけていくことだと言えるのではないでしょうか。
そのための問いとして、まずはこんな言葉を置いてみてもよいかもしれません。
「もし無意識が、一番いい方法を知っているなら?」
すぐに答えを出そうとせず、その問いを相手の中に置いてみる。何が起こるかを支援者が先に決めないことで、その人自身の反応が立ち上がってくる余地が生まれます。
変化とは、支援者が選んで渡すものではなく、目の前の人の中から見つかり、立ち上がってくるものなのかもしれません。
私たちにできるのは、答えを渡すことではなく、その人が今は忘れている反応を、自分で選べるような場や空間をつくること。
「変えなければ」と力を入れているときほど、一度手をゆるめてみる。そのとき、相手の中ではどんな可能性が動き始めるのでしょうか。
